[ハイカー必見]山で仲間を助けるファーストエイド(応急処置)の教科書。

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最終更新日 2019.7.26

もし、山で仲間が怪我をしたら、重傷を負ったハイカーに出会ったら、みなさんは冷静にファーストエイド(応急処置)ができますか?

不慮の事故によって重傷を負ったとき、周囲にいる人がどれだけ適切な対応ができるかによって、生存率や後遺症の確率などの大きな分かれ道になると言います。

街中のように救助をすぐに呼べない山中となれば、その需要性はさらに高まることは言うまでもありません。

昨今は、ファーストエイドキットを常備するハイカーも徐々に増え、以前よりも意識は高まりつつあるようですが、実際に事故現場で冷静かつ適切な対処ができるハイカーはまだまだ少ないのではないでしょうか。

もちろんぼくもそうでした。

そんな中、先日「多良の森トレイルランニング」で、兵庫の六甲をホームフィールドとする現役看護師の「高木義宣さん」による、「ファーストエイド講座」が開催され、役に立つことをたくさん学ばせていただいたので、こちらの記事でシェアしたいと思います。

山を愛するみなさんが、少しでもファーストエイドの知識を高めて、いざという時に助け合えるような環境を作る。ということに役立てば嬉しく思います。





もくじ




ファーストエイドの基本

ファーストエイドは治療ではなく「応急処置」です。

目的はあくまでも「今より怪我を悪化させない」「医療者になるべく良い状態で引き渡す」です。

高度な技術や特別な器具は必要とせず、身近にあるものでできる処置になります。

ここを理解しておくと、「一般人ができることを知る」ことにも繋がり、変に気負ったりせずに、自信を持って対応しやすいように思います。




きちんと判断することが最も大切

いざ、外傷者を前にした際に、正しい判断ができるかが、全てを左右します。

医療従事者ではない一般市民の場合は、「知識がないから判断ができない」と思いがちですが、判断に資格はいりません。

また、判断と言っても、難しい判断ではなく、「自分たちで対処できる状態なのか?」もしくは「医療者に任せるべき状態なのか?」

もっと簡単に言ってしまえば、「死ぬかもしれない?」それとも「生命に別状はない?」といったレベルの判断できれば、全然違うということです。

次に、判断後は迅速に行動しなければいけません。

  • 「自分たちで対処できる状態」なら、必要な応急処置を施した上で「自力で下山する」または「その場で救助を待つ」
  • 「医療者に任せるべき状態」なら、むやみに動かしたりせずに「急いで救護の要請」します。
まっつん(カフェver)サムネイル
ここまでが基本的な行動原則となります。

これに要する時間が、命を繋ぐことや回復に大きく影響するので、少しでもファーストエイドの知識や理解を深めて、素早く正しい判断、行動ができるようにしたいですね。




医療者に任せるべき外傷者の状態

ショック状態が確認できる場合には、基本的に「医療者に任せるべき状態」と判断して、すぐに救護の要請をしましょう。

ショック状態は以下のような状態を指します。(意識の有無は関係ありません)

呼吸不全
呼吸の回数が「1分間に25回以上」または「1分間に6回以下」の状態です。
冷や汗
汗腺が開くため冷やせが出ます。
蒼白
顔面が真っ白になった状態です。
虚脱
周囲に無関心で無欲、ぼーっとした状態です。
脈拍触知不能
脈が弱く早い状態

この中で一つでも当てはまるものがあれば、救護が駆けつけるまで安静にすることが大切です。

その間は、専門知識がある方の指示やアドバイスに従ってください。

ショック状態の場合はむやみに動かしたりしてはいけません。できることは以下のことぐらいです。

  • 本人が楽な体勢(意識がない場合は仰向け)で寝かせる
  • 両足を15〜30cmぐらい高く上げる
  • ネクタイやベルトなどを緩めて楽にする
  • 毛布や衣服などで保温
  • 適度に声をかけて元気づける




捻挫や打撲などの外傷の基本はRICE処置

登山やトレランでもっと多い怪我は、捻挫や打撲だと思います。

特に捻挫の場合は、軽く見て「整形外科に行くまで何もしない」、その結果、復帰(回復)にかかる時間が伸びてしまうというケースが多いようです。

これらの外傷には「RICE処置」と言われるものがあって、誰でも簡単にできる上に、悪化を防ぎ、回復を早める効果があります。

RICE処置とは以下の頭文字をとった言葉です。一つずつ簡単に説明します。

REST(安静)
怪我したところを安静に保ちます。
損傷部位の腫れ管・神経損傷を防ぐ目的で、患部を安静に保ちます。筋肉や関節の動きを抑えることによって内出血も抑えられます。添木やテーピングなどで損傷部位を固定することも含みます。
ICE(冷却)
患部を氷などで冷やします。
内出血と腫れを最小限に食い止めることで、組織の再生を促します。
COMPRESSION(圧迫)
患部を適度に圧迫します。
弾性のある包帯(伸縮包帯)やテーピングなどで患部を適度に圧迫して、内出血と腫れを防ぎます。冷却や固定などとうまく組み合わせるのが無難です。
ELEVATION(挙上)
怪我したところを心臓より高くします。
腫れの防止、軽減をします。

RICE処置は、捻挫、打撲、肉離れなどに有効ですが、ひどい場合には24時間~48時間以上は続けます。また、あくまでも応急処置であり治療ではありませんので、早期に整形外科で受診することが必要です。

まっつん(猿ver)サムネイル
早く山に復帰したいならRICEは必須!



ここからは具体的な処置の方法について説明していきます。




出血を伴う切り傷の処置について

山ではちょっとした転倒でも、坂道などで勢いがついたりして、思った以上に出血することがあります。

特にスピードを出すトレイルランニングでは、ちょっとした小枝や小石が凶器になることも。

山で怪我した時の傷口
山で怪我した時の傷口

この写真は、昨年でくじゅうで「のんびりハイク」していたときに、緩やかな下り坂で、ズルッと滑って尻もちをついたときに負った傷です。

まっつん(カフェver)サムネイル
今見ても酷い、、特殊メイクみたい。。

本当にのんびり歩いているときのことで、転倒後も怪我なんてしているとは微塵にも思っておらず、腕をぱっぱと払ったときに、「痛っ」となって、こんなに切れていたことに気づいたぐらいです。

細かい砂利のような路面だったので、おそらく尖った小石などがあってスパッといったんでしょうね。

出血はそれほどありませんでしたが、こんな感じで山ではちょっとしたことで怪我をすることが良くあります。

出血があると、たじろいでしまう人も多いと思いますが、以下の3つのポイントを押さえて適切に処置をしましょう。

  1. 手袋を着用して処置に当たる
  2. 患部を圧迫して止血する
  3. 消毒せずに水で流す

具体的にそれぞれ説明していきます。




感染防止に手袋は必須

どれだけ親しい人であっても、万が一の感染を防ぐために、必ず手袋を着用して処置を行います。

せっかく適切な処置をしたとしても、救護者が感染してしまっては元も子もありません。

欧米では救護者が手袋やマスクをしなけれは、処置に当たることが許されない。というぐらい常識だそうです。

手袋は天然ゴムだとラテックスアレルギーによるアナフィラキシーショックを起こす可能性があるので、「ニトリル製」の手袋がおすすめです。

また、血液だけでなく、汗以外は全て(吐物、唾液など)もすべて感染源になり、目、鼻、口などの粘膜から感染しますので、細心の注意を払って処置に当たってください。

サングラスを着用したり、手ぬぐいで顔を覆って処置すれば、より確実に感染を防ぐことができます。




消毒はしないで水で流す

以前は、傷口には消毒をしてガーゼで覆う。というのが一般的でしたが、今は消毒をしない方が治りが早いということが研究でわかっています。

異物を取り除けば、感染を起こすこともないので、傷口についた「土や砂」などを水でキレイに流すだけで十分です。

また、透明の滲出液(いわゆる体液)は治癒に役立つので、乾かしてカサブタにするよりも、乾かないでジュクジュクをキープする(湿潤療法)方が治癒が早く、傷跡も残りづらいと言われてます。

ハイドロコロイド仕様の絆創膏が手軽でおすすめです。

小さいものだと傷口が覆いきれないことがあるので、大きいサイズにした方が良いです。

ぼくは、写真の怪我をした際に、市販の大きいサイズでも傷がはみ出たので、包帯状のカットして使うタイプを携行しています。

このような絆創膏がない場合は、乾かないようように傷口にワセリンを厚めに塗って、ガーゼで覆っても良いです。




止血の基本は圧迫

これ、意外と知らない人が多い気がします。(ぼくも知りませんでした。)

全体の1/3以上の血液を出血すると、ショック状態など生命の危機にさらされるので、止血はとても重要です。

基本は「直接圧迫止血法」を行います。

傷口にガーゼや布(三角巾など)を当て、その上から手袋をした手で握る(もしくは抑えつける)ようにして圧迫します。(出血量によっては体重をかけるなどして強く圧迫する必要があります。)

ある程度止血ができたら、患部が心臓より高い位置になるようにして維持します。

圧迫止血では止血できないほどの出血の場合は、「止血帯法」を行います。

出血部位よりも心臓に近い部分を、三角巾やタオルなどで縛って輪を作り、そこ棒状のものを差し込み、出血が止まるまで回して締め込みます。

30分以上に及ぶ場合は、壊死の危険があるので、30分ごとに一度緩めて血流の再開を図ってください。

ガーゼも大きいものをカットして使用するのが実用的かつ経済的です。




骨折、捻挫、突き指などにおける固定方法

怪我した部位を動かすと、痛みが発生しますが、これは傷や損傷が悪化することに直結しています。

逆に言うと、動かしたり、負荷や刺激を与えないようにすれば、悪化を防ぐことができるので、固定するということが非常に重要です。

また、負傷者の痛みを少しでも取り除いてあげれば、負傷者と救護者の信頼関係の構築に役立ちますし、移動などもしやくなります。




副木(添え木)を使って固定する

山中であるものを副木代わりにしようと思ったら、みなさんは何が思い浮かびますか?

「木の枝」や「トレッキングポール」を想像する方が多いと思いますが、固くて体の形状に合わないものは、痛くてほとんど代用できません。

また、よく「ダンボール」や「新聞紙」を折り畳んだものとかも聞きますが、山中にそれらはまずないし、携行してないですよね。

つまり、山で負傷したときに、副木になるものなんてほとんどないということです。

ぼくが思い当たるものは、「スリーピングパッド」やお尻に敷く用の「マット」ぐらいです。

テント泊でスリーピングパッドがあれば一番良いですが(カットする)、日帰りでもこういったマットを携行しておくと良いです。

こんな感じでかなりいい調子です。
マットで副木の代用

また、初心者を連れて歩く機会の多い人や、トレイルランを運営する側の方などの場合は、「サムスプリント」という医療用の副木があって、使い勝手もよく、しっかりとした固定ができるので、用意することをお勧めします。

サムスプリントは、アルミ合金をウレタンフォームで包んであるので、内側に負傷部位に合わせて自由に変形できますし、変形させると強度が増すという特徴もあって、応急救護の世界では必須アイテムとなっています。

サムスプリントはカードサイズの小さなものもあって、突き指や手首の固定などに使えます。

サムスプリントの使い方はこちらでご確認ください。

副木の固定には、自着性のある伸縮包帯を使います。

自着性のある伸縮包帯は、以下の通り本当に優れものです。

  1. 直接の関節固定にも使える
  2. 強く巻けるので、傷の圧迫にも使える
  3. 自着性があるので、テープなどで留める必要なし
  4. 手で切れるのでハサミは不要
  5. 簡単に剥がせるので何度も巻き直しができる
  6. 頭髪は肌にはつかない(かぶれにくい)

ただし、切り傷などの患部などに直接当てることはできません。




三角巾を使って固定する

手首や腕を負傷した場合には、歩行による衝撃を緩和するために、腕を吊リます。

足首を捻挫した場合は、靴の上から三角巾で固定します。

三角巾は固定する以外にも、出血時の止血帯になったり、新しいものなら傷口に当てるガーゼの代わりにもなるので、必ず携行するようにしましょう。

まっつん(猿ver)サムネイル
三角巾を使った具体的な固定方法は後日追記します!必要ならひとまずググってください!苦笑



手軽に負傷者を搬送する方法

応急処置を施した後に、移動をしなければいけないケースは多々あります。

  • 自力で下山しなければいけない。
  • 安全な場所に移動しないといけない。
  • 尾根まで上がらないと携帯の電波が入らない。

小さくて軽い子供ならいいですが、大人を搬送するのは容易ではありませんし、おんぶして運ぶと両手が塞がって非常に危険です。

そんなときにクライミングギア一つで楽に搬送する方法があります。

120cmのスリング(シュリンゲ)を使います。

負傷の背中側にスリングを回して、上側は脇の下にして下側はお尻の下にはめるようにセットします。
上側は脇の下にして下側はお尻の下にはめるようにセット

前側にできた輪っかに腕を通して、ザックの要領で担ぎ上げます。
担ぎ上げた状態

写真では手でスリングを掴んでますが、手を離しても安定した状態で担いでいられます。

負傷者が寝たまま動けないような状態のときは、サポートする人が必ずもう一人必要です。




負傷者の意思を尊重する

ここまで色々と処置に関して具体的に説明してきましたが、それ以上に大切なことがあります。

それは「負傷者を安心させてあげる」ことです。

セオリーな方法で痛いのであれば痛くない方法で、動かしたくないのであれば動かさないようするなど、できる限り「本人の意思を重視」して、嫌がることをしないようにしてください。

そうすることで、負傷者は救護者を信頼し、安心して処置を受け入れることができるようになります。

信頼関係が崩れてしまうと、できる処置もできなくなりますので、それを忘れずにファーストエイドを行ってください。




ファーストエイドの豆知識

高木さんいわく、ファーストエイドは、あるもので、できることをする。ことだそうです。

意外と身近なものでも役立ったりすることも教えていただいたので、紹介しておきたいと思います♪




ワセリンは鎮痛に似たような効果がある!

傷口が痛む原因は、傷口に「空気」や「生地」が触れることにもあります。

そこにワセリンを塗って傷を上からガードすることで、痛みを軽減してくれるわけです。

他にも、傷口を乾かさないので、湿潤療法の効果が期待できますし、ガーゼなどの張り付きの防ぎます。

また、ボクシングでカットした時にも使用しているように、止血効果がワセリンにはあるはずです!たぶん。。

不純物が混じっているワセリンは感染の原因になるので、傷口に濡ってはいけません。

必ず、純度の高い白色のワセリンを選んでください。

国産で一番純度の高い「サンホワイト」がおすすめです。

ぼくは、こんな感じでサンホワイトの大きいサイズを小分けして携行しています。
サンホワイトを小分けが経済的

まっつん(猿ver)サムネイル
全然減らん!笑



ビニール袋が手袋や三角巾代わりになる?

スーパーの袋が役に立つことがあります。(大きめのものがベター)

止血の際に、手袋がなければ、手に袋を被せて処置をすることができます。(穴が空いてないかの注意は必要

また、三角巾がなくても、ちょっと工夫すれば、腕を吊ることができますし、処置に使った汚れたものを処分するのにも使えます。

三角巾代わりにして腕を吊る手順は、以下通りです。

輪っかになってる持ち手の部分(左右)を下まで裂くようにハサミで切ります。
ビニール袋の持ち手(左右)を下まで切る

広がった輪っかの部分に首を通して、袋になったところに腕を通します。
スーパーの袋で三角巾の代用

まっつん(カフェver)サムネイル
考えた人、天才やな。。




カードで骨折箇所を固定?

免許証や保険証などのカードを山に携行している人は多いと思います。

腕、手首、指などを骨折した場合に、何も副木がなければ、それらを副木の代わりに使うだけでも全然違います。

専用の器具を持ち合わせてない場合は、「何か使えるものがないか?」と必死に考えてみてください。何かしら活用できるものはあるかもしれません。




山で携帯の電波が入る場所を予め把握しておく

いくらアンテナが増えたとはいえ、まだまだ電波の入らない山はたくさんあります。

もしもの時に電波が入らないと、救助要請(119番)をすることもできません。

ネットで予め山行ルート上の電波状況などの情報を収集しておきましょう。

docomoの主要な山に関しては、携帯電話がご利用いただける登山道という情報を公開しています。

また、基本的に谷は電波が入りづらく、尾根上の方が電波が入りやすいということを頭に入れておきましょう。

「山と高原地図」や「YAMAP」などで、そういった情報が収集して公開してもらえたら良いのですが、、




いざという時に役立つ便利グッズ

RICE処置でも説明した通り、負傷した患部を冷やすことは重要ですが、特に夏場などの気温が高いと、何もしなければ逆に温めているのと同じ状態です。

そんな時に役立つのがお馴染みのヒヤロンです。

また、水の確保が難しいときに役立つのがレスキュータオルで、精製水100ccを含んだタオルが密封されているので、簡単に傷口を拭うことができます。

かさらばないのでファストパッキングにおすすめです。




最後に..

いかがでしたでしょうか?

登山やトレイルランニングに怪我はつきものです。

しかし、まだまだファーストエイドに対する意識は日本では根付いていません。

自分たちでもできたはずの処置ができずに、傷ついた仲間に何もしてあげられないのは本当に辛いです。

ファーストエイドを学べば、仲間を助けることはもちろん、みなさんのフィールドでの可能性はもっと大きく広がっていくはずです。

また、この記事が学んだことは、ぜひ仲間と共有して自分たちのものにしてください。役に立つと思った方はSNSでシェアしてください。

そうして、みんなのファーストエイドの意識が高まっていけば、山で悲しい事故は減らしていけるはずです。

時間ができたら、ファーストエイドキットについても書いてみようと思います。




おまけ

搬送方法の写真を妻に協力してもらって撮ったときのNGカットが面白かったので、、

ゾンビみたいなNGカット

まっつん(カフェver)サムネイル
ゾンビやないかい!笑