新潟親子遭難事故の原因と問題点を改めてよく考える。(2.入山後の行動と対応)

前回、新潟親子遭難について、メディアで把握している情報をもとに、準備段階で問題があったと思われることをピックアップしながら、ぼくなりに改善の余地などを書いてみました。

新潟親子遭難事故の原因と問題点を改めてよく考える。(1.入山前の準備)

今回は入山後の問題点や対策などを考えていきたいと思います。

注)あくまでも親子や関係者への批判ではなく、亡くなった親子の死を無駄にしないためにも、こういった事故を減らすきっかけになればという思いで書いていることをご理解ください。








登山口を出発した時刻が遅すぎた

出発した時間がメディアによって13時と14時と異なっていて、どちらが事実か不明ですが、13時だったとしても遅すぎる出発です。

松平コースは山葵山を経由して松平山に向かう尾根沿いのルートで、一般的なコースタイムで登りは2.5時間ほどかかるようです。

下りは少なめに見積もっても1.5時間は必要になると思いますので、往復で4時間の行動時間、加えて山頂での休憩時間をいれれば、合計して下山まで5時間程度のはかかることになります。

単純計算すると13時出発での下山予定時刻は18時です。

新潟県の当時の日没時刻は18時40分です。平地なら一般的には日没時刻はまださほど暗くはなりません。

しかし、山の場合は特に下山中は樹林帯を歩いている可能性が高いので、平地より暗くなりはじめるのがぐんと早くなります。

また、尾根沿いではなく、谷を歩いている場合には、地形によっては信じられないほど早く暗くなる場合もあります。

そもそも登山にはトラブルがつきものです。

挙げればキリがありませんが、多くの人が経験する例でいえば、道に迷う、怪我をする、膝や腰にトラブルが生じる、足が攣る、その他にも途中で落し物や忘れ物をして引き返すこともよくあります。

ひとたびトラブルが発生すれば、1~2時間は簡単にロスします。

複合的にトラブルが発生した場合も考慮すれば、最低でも安全マージンは3~4時間は必要になってきます。

だから一般的には朝早く出て昼過ぎには下山するというのがセオリーになるわけです。

そう考えると、今回の13時出発というのは本当に問題外で、「もう今日は遅くなったからやめとくか。」とするか、そうでなくても「短い山(コース)に変えようか。」というのが、正しい判断だったのではないかと思います。




親子を目撃したという登山者がいたにも関わらず・・

今回は最終的には複数の目撃証言があり、目撃者は親子と登山道ですれ違っています。

また、目撃者は軽装だったことの証言もしていますし、山頂に向かうコースだったことを考えれば、すれ違った時に時間的に余裕がないことは傍から見ても明らかだったはずです。

残雪期の山に小さい子供を連れた軽装の親子が、通常では考えられない時間帯に歩いていたわけです。

なぜ、制止しなかったのでしょうか。。

山に慣れている人間なら、他の登山者に出会った時、服装や歩くペースなどを見て、自分より不慣れそうだとか、経験豊富そうだとかはある程度わかります。

もし出会った登山者が前者であり、

  • 通常なら間違ったルートを進んでいる
  • 時間的に下山が日没に間に合わないコースを歩いている
  • ルートやコンディションに対して装備不足である

ということに気づいた場合、相手に一声をかけるべきだと思います。

少なくともぼくは声をかけますし、声をかけてもらったこともあります。

よく登山は自己責任だと言いますし、今回も「山を甘く見たのが悪い。」と非難する声もありますが、もし、目の前で自殺をしようとしている人がいたら止めますよね。子供が一緒なら尚更です。

今回の親子の山行は自殺行為に近いレベルだと思います。

すれ違った登山者を責めるのは違うような気はしますが、そういった声掛けがなされなかったことについては残念でなりません。

無知だと責めるのは簡単ですが、誰も命を落としたくて遭難をしていません。

時に余計なお世話と責められることもあるでしょう。

それでも尊い命を守るために登山するもの同士で助け合いたいものです。




道迷いした結果、沢を下ってしまった。

発見場所は松平山(954メートル)と五頭山(912メートル)をつなぐ尾根沿いの登山道から西へ約1.5キロ離れた場所。尾根を縦走する際に道を誤るとたどり着きやすいという。同署は2人が沢づたいに下山しようとしたが、沢の先にある滝に行く手を阻まれ、力尽きた可能性があるとみている。

この沢を下った(沢に降りた)という行為が、親子が命を落としてしまった最大の誤りだった可能性は高いです。

「道に迷ったら沢を下るな!」という定説を、知っていたのかどうかはわかりませんが、知っていてもつい下ってしまいたくなる心理もあります。

この「沢を下るな!」については個人的に色々と思うところがあるのでこれについては別の記事で書いてます。
迷ったら沢を下るな!尾根にでろ!をとことん掘り下げてみた。

道に迷った場合は折り返して戻るのが基本です。

戻ったつもりでも元のルートに回帰できない場合も多々ありますので、その場合は尾根に出て別の登山道に出会うことを目指すか、それでも登山道が見つからない場合はピークを目指します。

また、道中で見晴らしのいい場所があれば、地図を開いて、地図上と一致すつ目印を探します。2つ以上見つかれば、地形と照らし合わせて現在地を特定することができます。




初動の遅れとその原因について

災害などの人命救助では、よく「72時間の壁」という言葉を聞きますが、被災者が飲まず食わずの状態で72時間を経過すると著しく生存率が下がるからです。

ちなみに水だけでも飲めれば20日前後は生き延びると言われてます。

これは、山で遭難した場合でも怪我による出血や寒さによる低体温症などがなければ、同じぐらいの日数を山中で生き延びることができると言えます。

しかし、捜索に時間を要した結果、遺体で発見されることも多く、1分でも早く発見されることが一つの鍵であり、そのためにも初動を早く行うことが重要なのは当然の話です。

今回、親子が入山したのは5/5で、搜索開始は5/7の早朝です。

5/5の20時には祖父に道迷ったことを告げる連絡をしているので、実質親子が遭難をしてから、1日半が経過しての初動です。

72時間の半分が既に経過してます。遅すぎますね。。




遭難者は遭難の自覚がない

遭難者は道に迷っても自分が元気に動ける状態であれば、遭難している自覚がなく、身内や関係者に連絡をしても、状況を報告するだけで救助の要請をしないことが意外に多いものです。

遭難した立場の心理を考えれば、自分はまだ元気な状態である限り、なるべく自力で解決したいと思ってしまうのは、ある意味で当然かもしれません。

しかし、実際には初動が遅くなることことにはデメリットしかありません。

遭難時は冷静な判断ができないので、深みにはまってしまったり、滑落をしてしまったり、取り返しのつかない事態に発展しやすくなります。

そう考えると、第一報を受けてすぐに警察に連絡しなかった祖父や、祖父から翌朝に相談を受けた警察がすぐに行動しなかったことにも問題があります。

実はぼくも過去に道迷いをして、救助をうけたことがあります。

簡単に状況を説明するとこうです。

小学6年生の息子を連れて山頂からの下山時に道迷い。

山頂まで登り返すには日没に間に合わない。

登り返さずに下山できるルートなどをアドバイスしてもらえないかと思い、
管轄する役場に電話連絡して相談する。
(もちろんこの時点で遭難したという自覚はありませんでした)

「消防に連絡するのでそのまま動かず待機していてください。」と言われる。

「あ、いや、道を聞きたいだけで、そこまでのことじゃ、、、」と軽く断る。

「いいから、絶対にその場を動かず待機していてください」と制止される。

消防の山岳救助隊に陸路で救助される

恥ずかしい話ですが、ぼくは当時登山初心者で知識も経験もほとんどありませんでした。

役場の方から一方的に遭難としての対応をされたときは、正直「うわー大ごとになっちゃうやん、困ったなー」という感じでした。

しかし、今思い返せば、あの時自力で解決しようとしていたら、大事故に発展した可能性は充分にあったと思います。

今となっては役場の方の対応に感謝しかありません。

身内、警察を問わず、当事者から連絡を受けた場合は、当事者が熟練のベテラン登山者でもない限り、本人の言うことを鵜呑みにせず、事態を重く受け止める必要があると思います。

安易な救助要請が昨今は問題となっていますが、救助要請をしなかった場合にどうなったかは誰にもわからないことです。

税金の使い道という意味での問題や、救助する側のリスク等を考えば、安易な救助要請を減らすことは大切だと思いますが、それ以上にそもそも救助を要請するような自体が起こらないように、登山者全体のレベルアップを図ることの方が重要だと思っています。

極論にはなってしまいますが、例えば、一定以上の山への入山は免許制にするとか。受講を義務付けるとか。この話はまた機会があれば書きたいと思います。




捜索隊に居場所を伝える努力はしていたのか?

捜索範囲が広く、地形や木々に視界を遮られる山の中では、遭難者の現在地を目視で発見するのはものすごく大変です。

また、人の声というのは遠くまで通りづらく、いくら叫んでも気づいてもらえなかったりします。

親子が遭難してからどのぐらい生存していたのかわかりませんが、現在地を知らせる努力をしていたのかも気になるところです。

一般的には以下のような方法があります。




ホイッスル

衰弱していく中で大声を出し続けるのは大変ですし、人の声ではヘリや風の音にかき消されてしまいます。

災害時なども含め、ホイッスルの有効性は確かなものです。

最近はチェストベルトにホイッスルが付属しているザックなどもありますが、荷物になるものではないので、いずれにしても必携装備ですね。

安価なものもあるので、お持ちでない方はこれを機にどうぞ。




狼煙(のろし)

原始的な方法ですが、非常に有効な方法です。(山火事にならないよう注意が必要)

今回親子は山行前にコンビニでカップラーメンを購入しているので、山中に持っていたのであれば、火器をもっていた可能性が高いです。

だとすれば、狼煙を上げていればそれで発見してもらえる可能性もあったはずです。

そういった点でもバーナーなどの火器を持ち合わせていない場合でも、ライターやマッチなども必携装備と言えます。

ライターはガス切れなどもありますので、両方あるのがベストです。




SOS文字で知らせる

これも原始的な方法ですが、倒木、衣類、ロープなどを使用して、それなりに大きなサインを出しておくことができれば、上空からヘリに見つけてもらえる可能性はああります。




遭難信号

ホイッスルやヘッドランプなどを使う遭難信号というものがあります。

詳細は検索などすればたくさん出てくるので割愛しますが、いざという時のために覚えいておいて損はありません。

発見されないまま、搜索が打ち切りになった遭難事件などでも、おそらく救助隊が接近していたのに発見されてなかったというケースもあると思います。

捜索される方も発見されるために、できる限りの努力をしなければいけません。




当初の捜索範囲が間違っていた点について

当初、家族からの情報を元に赤安山を中心に捜索したとありますが、父親は第一報で「ナビ(GPS)を見たら松平山と五頭山の間付近」と言っています。

メディアの報道の情報によれば、祖父の言動は不可解な点も多く、警察でも情報が錯綜していたように見受けますが、なぜ赤安山と判断したのか。。

警察の判断ミスだと一概に決めつけることはできませんが、判断ミスがあったように思えてなりません。

ちなみに、Googleマップなどの地図アプリは現在地の座標は簡単に取得できます。

せめてそれを電話連絡があった時に祖父に伝達していれば、捜索範囲の判断を誤ることなく、もっと効率よく捜索できたことでしょう。

地図アプリでLINEなりSMSなりで座標を送るのは簡単ですし、SNSでも何でもいいのでGPS情報を第3者が後から確認できるようにしておけば、捜索の効率は一気に上がります。

それほど今のGPSは精度が高くなっています。




まとめ

ここまでで、ぼくなりに登山中の行動を中心に、あまり今回の事件に絡んで話題にあがっていない問題点や、その対策をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

前回の記事の分も含めて、ぼく自身も全てがきちんとできているわけではありません。

また、遭難が発生するときには、事故が起こる原因や注意すべきことを、わかっていてやらなかったというケースと、そもそも知らなかったというケースがあります。

この記事を見て、今後はちゃんとやろうと思っていただいたり、知らなかったことを一つでも知っていただけく機会になったのなら本望です。

今回の事故による親子の死を無駄にしないためにも、是非この記事をご友人や周りの方とシェアしてください。

近年は登山者数は減っているにも関わらず、遭難(届け)の件数は増えているそうです。

登山における悲しい事故が少しずつでも減りますように。