迷ったら沢を下るな!尾根にでろ!をとことん掘り下げてみた。

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最終更新日 2022.7.26

山で道に迷ったら、
沢をくだるな!尾根に出ろ!というのは定説ですよね。

登山初心者が登山について学び始めると、必ずと言っていいほど「三種の神器」の次に出てくるこの言葉。

この「迷ったら沢を下るな」というフレーズはそのぐらいメジャーで、登山者には浸透している道迷いの鉄則です。

それでも沢で発見される遭難者が多い現実。

なぜでしょうか?

もちろん、それを知らなかったという人もいるでしょうけど、どうも「沢を下るな」というこの決まり文句だけが、一人歩きしているような気がしてなりません。。

どれだけの登山者がこの言葉の意味を真に理解しているでしょうか?

本質を理解しないと役に立たない言葉はたくさんあります。今日はその辺りを詳しく掘り下げてみたいと思います。




もくじ




そもそも沢とは?

初心者からしたら「沢を下らなければいいんでしょ?」となりますが、そもそも沢の意味すらわかっていない人って、実は結構いるんです。

まっつん(カフェver)サムネイル
ぼくも登山をはじめた当初は知りませんでした(苦笑)

そもそも沢と言ったら、水が流れているところを想像しませんか?

もちろん川と同じように、水が流れるところを指す言葉ででもあります。

しかし、地形として指す場合の「沢」は、水があるかどうかは関係ありません。

詳しく調べた方の話によると、、

どうやら日本アルプスを境に、
東側では「谷」のことを「沢」と言い(谷は〇〇沢という地名がほとんど)、
西側ではそのまま「谷」と言う(〇〇沢という地名はほとんどなく〇〇谷になる)。
ということのようです。

確かに、九州でも〇〇谷という地名は多数ありますが、〇〇沢という地名は全くと言っていいほどでてきません。

つまり「沢=谷」なんです。

それなら、「谷を下るな」の方が良い気もしますが。。




結局は尾根に出るしかない

山の地形を大きく分類すれば、尾根と谷(沢)しかありません。

山の地形は尾根と谷

ざっくりとこんな感じ。尾根が「青」で、谷(沢)が「赤」です。

写真を見てもわかる通り、尾根と尾根の間にある窪みが谷(沢)になります。

つまり、沢(谷)を下るなということは、「登って尾根に出ろ」ということになります。

細かいことを言うと、尾根と谷の中腹(斜面)にいることもありえますが、斜面をずっとトラバースするのは現実的でないので、結局は尾根に登るか沢に(を)下るかしかありません。

尾根に出た方がいい理由も色々あって、それについては後述しますが、いずれにしても、沢(谷)を下らない以上は、登って尾根に出るしか選択肢がないということなんです。




なぜ沢を下ってはいけないのか

考えられる理由をすべて挙げてみます。




崖や滝に出会うことが多いため

これはそこかしこで語られていますが、必ずと言っていいほど、沢を下っていくと「崖や滝が現れるから」というもの。

崖や滝は「登攀技術」や「登攀用具」がないと、安全に下ることはできません。

それらを持ち合わせていない一般登山者にとっては行き止まりと同じことを意味します。

それを無理になんとかしようとして、滑落して致命傷を負うケースが後を絶ちません。

「普通は滝を下ろうとなんてしないでしょ?」と思いませんか?

なぜ、それでも下ろうとしてしまうのか?は、すごく重要なことなので、こちらについても後述します。




尾根と尾根の間に位置することで発生する悪条件

尾根と沢(谷)は常に隣あっているので、沢(谷)は尾根と尾根の間に位置していると言えます。

これが遭難時に以下のように、様々な悪条件となります。

視界が悪くなる
一際低いところに位置するので視界が悪くなり、目印になるものが見つからず、憶測や勘を頼りにするしかなくなります。
携帯の電波が入りづらくなる
特に深い沢(谷)になると、高確率で携帯の電波は入りません。山の周囲は電波が入る地域でもあっさりと圏外になったりします。その結果、非常時の連絡手段が絶たれます。
日照条件が悪くなる
尾根が日照を遮ることで、日没前に暗くなりがちです。また、日照時間が短いと気温が低くなりがちです。
捜索隊に発見されづらくなる
特に捜索ヘリだと尾根(凸)と沢(凹)にいるので雲泥の差です。物理的に尾根より沢の方が距離がありますし、沢の方が草木が生い茂っていて視界を遮るものも増えます。
落石の危険に晒されやすくなる
これはもう説明するまでもありませんね。山のどこかで落石が発生したら、落石は谷に向かいます。
GPSが測位しづらくなる
GPSアプリなどを使用していれば、そもそも道迷いしないと思いがちですが、気がついたら、ルートを外れているということはよくあります。その時に深い沢に入り込んでしまって、測位できないと現在地がわかりません。滅多にないと思いますが、ぼくは九州脊梁で経験してます。

思いつく範囲で書いてみましたが、想像以上に沢(谷)が悪条件であることがよくわかります。




急な斜面が多い

沢(谷)は、水の流れによる侵食により形成されたものがほとんどです。ということは、尾根の方がなだらかで、沢沿いの方が斜度きつくなります。

特に高度が上がるほど、それは顕著になります。

急な斜面が多いということは、崖や滝ではないにしても、足場が悪く、滑落などのリスクが上がります。

また、斜度がきつくなると、登って戻るのも億劫になりやすいですし、滑りながら降りてくるような斜面なら登り返すことができない場合もあります。


とまあ、思いつくままでに沢のデメリットをあげてみましたが、まさに百害あって一理なしということが分かったかと思います。

先ほども言ったように、そうなると尾根に出るしか選択肢はないわけですが、今度は逆に、尾根に出る場合のメリットも考えてみたいと思います。




尾根に出るメリット

基本的には沢でデメリットだったことの大半が、尾根に出ると改善されて、逆にメリットになります。

  • 見晴らしが良い
  • 携帯の電波が入りやすい
  • 日当たりが良い
  • 捜索のヘリから発見されやすい
  • GPSが測位しやすい

このあたりは完全に沢と真逆の性質ですね。。

そして、「尾根に出ろ」と言われる一番の理由は、日本の山は尾根沿いに登山道があることが多いので、「尾根に出れば登山道が見つかりやすい。」ということ。

しかし、これについては知っておいた方がいいことがいくつかあります。




本当に登山道は尾根沿いに多いのか。

ある程度、山に行っている人は気づくと思いますが、沢(谷)沿いを登っていくコースは日本でも結構あります。

というか、おそらく日本で一番多いパターンは、登山口からしばらくは沢(谷)沿いを登っていき、沢は後半で一気に斜度がきつくなってくるので、その手前で尾根沿いに切り替わるとコースだと思います。

最初からずっと尾根沿いを登るコースも確かにありますが、おそらく前者の方が圧倒的に多いはずです。

以上のことより、あえて登山道がどこにあるかと言うなら、山頂に近づけば近づくほど尾根沿いにある可能性が高く、麓に近づけば近づくほど沢(谷)沿いにある可能性が高い。ということになるはずです。

そう考えると、「尾根に出れば登山道が見つかりやすい。」というのは、どうにも誤解を生みそうに思えてなりません。

しかし、尾根に出て登り続けると、必ず、支尾根 → 主尾根 → 山頂 と辿ることになるので、その過程のどこかで確実に登山道には出会います。

だから、「尾根に出ろ!そして登山道に出会うまで登れ!」が、正解だと思います。

まっつん(カフェver)サムネイル
ちょっと長いですけど(苦笑)



それでも沢を下ってしまう理由

ここまでで示した通りで、沢を下るメリットはどこにも見当たりません。

しかし、そんなことを百も承知のベテランの方でも、遭難して沢で発見されることが少なくありません。

一体なぜでしょう。。

それでも下りたくなってしまう心理があるからです。




里が見える方向に向かってしまう

個人的には、これが一番沢を下ってしまう要因だと思ってます。

山頂でイメージするとよくわかりますが、尾根道が続く方向と、沢(谷)方向を比較すると、どちらが視界が開けてると思いますか?

当然、沢(谷)方向の方が視界が開けてます。

沢は山頂に近づくほど急斜面になっているので切れ落ちてるからです。

そして、沢は多くの場合は麓で川になります。人は川岸に集落を作ります。つまり、無残にも沢方面の先には里が見えることが多いのです。

人が山の中で迷うということは大自然という暗闇にいることと同じで、里が見えるということは、暗闇に差すひとすじの光になります。

現在地がわからず、自分が目指すべき方向すらもわからない状況で、里(町や集落)が見えたら、そこを目指そうと思うのは当然です。

そして、そこへまっすぐ向かおうとすれば、必然的に沢を下ることになります。

光に導かれたつもりが闇に向かうとはなんとも皮肉な話ですが。。




下ることばかりを優先してしまう。

尾根というのは少なからず山頂以外に小ピークが存在するので、下山方向に進んでいても小ピークの手前では登りが現れます。

それにひきかえ沢は、基本的に下り一辺倒です。

下りの途中に登りが現れることは絶対にありません。

道に迷って下山したいと思っているときに、登りが現れたらどうでしょうか?

例えばこんな感じです。

道に迷ってトレース(踏み跡)のない尾根道を歩いている。

進行方向(直進)に登りが現れる。

そこからではどれだけ登りが続くかは見えない。

ふと脇に目をやると割と歩きやすくて下っていけそうな道がある。

そちらを覗いてみると、その道の先の方は開けていて明るい。

どうでしょう?

この状況で尾根を登らずに、下りの道を選択する人は結構いるのではないでしょうか?

「体力的に楽そう」とか「登りが嫌だ」ということもありますし、単純に下ったほうが、早く下山できそうに思えませんか?

しかし、これこそが道迷いの事態を悪化させる行為そのものになります。

尾根を外れ、まさに沢に一歩足を踏み入れた瞬間です。

下山するということは、必ずしも下るばかりではありません。

「下山=下る」という固定概念が、
「下山したい=下りたい」という心理に直結するわけです。




元へと登り返すという判断は難しい

沢を下るという行為は、ほとんどの場合が、その前に「尾根から外れて沢に下りた」という過程が存在しています。

つまり、沢を下らないという選択をするときは、元へと登り返すしかありません。

しかし、その登り返すという決断が非常に難しいわけです。

下りに比べて、登りは体力も時間も格段に多く消費するからです。

既に体力と時間に余裕がない状態であれば、登り返すという判断ができないのは至極当然のことかもしれません。

そして、その判断を一度誤ってそれ以上に下ってしまうと、登り返すことはよりいっそう困難になり、さらに深みにはまっていきます。。


ここまでで「それでも沢を下ってしまう理由」を3つ挙げてみましたが、これらを全て予め理解している人だとしても、実際の現場では冷静さを欠いた結果、沢を下ってしまう可能性はあります。

特に日没ということが頭をよぎった場合に起こりやすいように思います。

冷静な判断ができる条件という意味では、日没を迎えても焦らないで済むような装備を備えていることが重要かもしれません。

  • ヘッドライトがあれば、夜間でもある程度は行動できます。
  • ビバーク装備があれば、翌日明るくなってから行動できます。

そのあたりの装備が不十分な方は、これを機会に見直しをされてみてはいかがでしょうか?
[二回も失敗した]ぼくが登山用ヘッドライトの選び方とオススメを語ります♪

老舗メーカーのツェルトも意外と良心的な価格です。

ちなみに、ぼくはファイントラックのツェルト2ロングを愛用しています。




まとめ

今回は「沢を下るな」をかなり色んな角度で掘り下げてみました。

ぼく自身も改めてこの言葉の意味を深く理解することで、もし次に道に迷っても「沢を下らない」自信が大きくなった気がします。

言葉だけ覚えて遭難しなくなるなら、もっと事故は減っているはずです。

みなさんも次に「沢を下るな」を誰かに伝える機会があれば、こう伝えるようにしてください。

沢を下るな!尾根にでろ!そして登山道が見つかるまで登れ!

同じ過ちを犯し、命を落と人が一人での減りますように。




以下の記事でも遭難防止について書いてます。よろしければ参考までに一度ご覧いただければと思います。